大学生によるブログ

伊崎の快活日記。

文学

谷崎潤一郎の魅力を語る!変態を超えた耽美派の世界

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文学について、そして文豪について知ってほしくて開催したこの「文豪特集」。

今回のテーマは文壇の異端児谷崎潤一郎です。

谷崎潤一郎という人物像

代表作や作風に移る前に切り込む前に、谷崎潤一郎という人物について軽くご紹介させてください。

谷崎の作風は少々癖が強く、誤解を招きやすいので、まずは谷崎について知ってもらい、親近感を持ってもらいたいという配慮です。

帝国大学時代に作家デビューするも...

谷崎は帝国大学国文科に入学します。

当時から文才は芽生えていたようで、在学中に発表した『刺青』などで永井荷風から高い評価を受け、華々しいデビューを遂げますが、授業料の未納により退学処分となってしまいます。

・・・いきなり破天荒ですね。

作家としての第二ステージ 関西での創作

谷崎は大学を中退した後も関東で創作活動を続けていましたが、関東大震災に被災。

これがきっかけで関西に引っ越し、作家としての第二ステージが始まります。

この時代に発表したのが『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

いづれも代表作といえる作品ですが、これらには学生時代とは違う感性の豊かさが盛り込まれています。

女性の美に傅く、という点では共通していますが、古典的、日本的な美意識が作品の随所に現れるようになります。

『陰影礼賛』から見る谷崎の人物像

それが最も色濃く表れているのが、『陰影礼賛』という随筆。

ぼんやりと薄暗い中で日本式の料理をいただく際の、透明な吸い物椀に注がれた液体の美しさに注目することで、日本と西洋の違いや本当の美とは何かといった問いに思いを馳せる谷崎の心情を見ることができます。

(以下、一部引用)

その時私が感じたのは、日本の漆器の美しさは、そう云うぼんやりした薄明りの中に置いてこそ、始めてほんとうに発揮されると云うことであった。「わらんじや」の座敷と云うのは四畳半ぐらいの小じんまりした茶席であって、床柱や天井なども黒光りに光っているから、行燈式の電燈でも勿論暗い感じがする。が、それを一層暗い燭台に改めて、その穂のゆら/\とまたゝく蔭にある膳や椀を視詰めていると、それらの塗り物の沼のような深さと厚みとを持ったつやが、全く今までとは違った魅力を帯び出して来るのを発見する。そしてわれ/\の祖先がうるしと云う塗料を見出し、それを塗った器物の色沢に愛着を覚えたことの偶然でないのを知るのである。(中略)私は、吸い物椀を前にして、椀が微かに耳の奥へ沁むようにジイと鳴っている、あの遠い虫の音のようなおとを聴きつゝこれから食べる物の味わいに思いをひそめる時、いつも自分が三昧境に惹き入れられるのを覚える。茶人が湯のたぎるおとに尾上の松風を連想しながら無我の境に入ると云うのも、恐らくそれに似た心持なのであろう。日本の料理は食うものでなくて見るものだと云われるが、こう云う場合、私は見るものである以上に瞑想するものであると云おう。そうしてそれは、闇にまたゝく蝋燭の灯と漆の器とが合奏する無言の音楽の作用なのである。

日本料理の本当の美は、闇の中で発見されると谷崎は感じます。
文明開化によって西洋式の明るい照明がもたらされ、日本の本当の美が侵食されつつあることを、薄暗い茶室の吸い物椀ただ一つから洞察するのです。

ここに、読者は谷崎による女性崇拝と、日本文化への敬意がまったく同じ平面状に広がっているのを発見するんですね。
耽美派・谷崎は自分にとって本当に美しいもの、価値あるものに一途だったのでしょう。

谷崎の作風

ここまで長い間、谷崎の半生と人物像について書いてきました。
谷崎が自分の美に徹底的であったこと、そして僕が谷崎の大ファンであることが伝わったかと思います。

さて、ここからが本番、谷崎文学の神髄へと切り込みます。

谷崎の作風は大きく3つの側面から見ていきます。

悪魔主義、という表現

しばしば谷崎は、「悪魔主義」と表現されます。
何が悪魔なのか?
答えは谷崎の姿勢です。

物議を醸す作品を世に多く発表し、時には批判を浴びながらも、彼の女性美への探求は衰えはしませんでした。
倫理さえも度外視して自身の文学を追及するその姿に、人は悪魔の影を見たのです。

古典回帰的な作風

先ほど引用解説した『陰影礼賛』に見られるように、純日本の美への尊敬もまた谷崎の特徴であり、それは女性崇拝とシンクロするように思われます
そして『痴人の愛』『春琴抄』では日本的美と女性美が止揚し、彼独自の文学として花咲きます

日本的情緒の中で女性の美しさが描写されており、これらの作品を一度読んでみれば単純に文学としての実力が桁違いであることがわかると思います。

耽美派作家として

まずもって語らねばならないのは、彼が耽美派の代表作家であることでしょう。
耽美派とは明治~昭和に生まれた派閥で、「美しいもの」を文学に仕立て上げ、美的感覚を追及した作家たちを指します。

永井荷風に端を発し、谷崎のほか佐藤春夫などが代表作家とされています。

島崎藤村などの「自然主義」が全盛であった時代に独自のスタイルで文学のジャンルを打ち立てた点も耽美派の快挙といっていいでしょう。(って、偉そうですかね・・・汗)

中でも谷崎が追及したのは「女性の美」。
美しい女性を徹底的に表現した谷崎の作風は完全に変態の域に達しており、なんというか男としてある意味レベルの高さを感じます。

谷崎について理解が浅いと、彼をただの変態、異常性癖と捉えてしまうかもしれません。
そして、それは間違いではありません。

谷崎の作品には、足フェチやМ、あとは・・・ええと・・・ここでは言えない性癖がたくさん詰まっています。
それを「女性崇拝」「美への追及」という言葉で表現し、真面目な顔をして国語の教科書に乗っているのが谷崎なのです。

谷崎の真骨頂、それは自分の性癖さえも文学の次元へと昇華させ、現代でも色あせない文豪として鎮座しているその異端性でしょう。
当時物議を醸した作品たちは、決して官能小説とは分類されずに文学として生きているのです。

代表作をのぞいてみよう

谷崎文学の魅力について、つい熱く語ってしまいました。
しかしこれで皆さんにも谷崎潤一郎の作品の偉大さが伝わったのではないでしょうか。

ならばそろそろ、実際の作品はどんな話があるの?と気になってきた頃ですよね。

それではついにお待ちかね、代表作の簡単な説明に行きましょう!

刺青

大学時代に創作された短編小説。
この作品が永井荷風に高い評価を受けたことで谷崎はスターダムへと駆け上がったわけですから、いわば出世作ですね。

主人公は入れ墨の彫り師。
美しい女性の体に自分の全身全霊を賭けた入れ墨を掘ることを長年の夢としており、最後には女性の背中に大きな女郎蜘蛛を彫り上げます。
注目すべきは主人公がいよいよ自分の人生をかけた女郎蜘蛛を掘るシーン。詳しくはネタバレになるので省略しますが、谷崎の美への狂気が垣間見えます。
短編なので最初の一冊にもおすすめです。ぜひ本屋で手に取って読んでみてください。

春琴抄

盲目の美少女・春琴と奉公人・佐助の物語。
少女に虐げられながらも献身的に使える佐助の様子がなかなかきついです。
これは中級者向けかも。
余談ですが、谷崎は少女を自分の手で育てながら、その少女に翻弄されるというシチュエーションが好きなのでしょう。次に紹介する『痴人の愛』も通じるところがあります。

痴人の愛

カフェでたまたま見つけた少女・直美を理想の女に育てるために引き取る譲二の話。
自由勝手な直美に一度は愛想を尽かし手放すものの、直美への思いを断ち切れない譲二は自分のもとへ戻ってくるよう懇願します。
その後は直美のいいように使われて、その状況にもある意味心地よさを見出してしまって・・・。
これはさすがに上級者向け・・・かな?

細雪

僕が生まれる前にも映画化されているようですね。
とても美しい世界観です。

商家の4姉妹を書いた物語で、女性美と絵巻物のような美しさが見事に調和しています。
当時の上流階級の絢爛な様相と、第二次世界大戦前の暗雲立ち込めた切なさが相まって、4姉妹の日常が時代の中で動いている様子が良い。

軍部の命で一度は出版差し止めになりながらも、戦後に発表し世間の喝さいを浴びました。
間違いなく代表作でしょう。

まとめ

谷崎という人物がいかに偉大で魅力的か、それを完全主観で伝えてみようという僕の試みは成功したのでしょうか・・・。

自分の性癖を文学へと昇華させる、という、文法はシンプルなのに意味不明な偉業を成し遂げたのが谷崎潤一郎という人物です。
谷崎文学のファンが一人でも増えることを祈っています。

長い記事になってしまいましたが、読んでくださって本当にありがとうございます。
谷崎の魅力が少しでも伝われば幸いです。

もし宜しければツイッターなどでコメント、記事のリクエスト等をお寄せください。
また、多くの人にこの記事を読んでいただきたいため、記事を拡散していただけると幸甚です。

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